講演会
第82回精神文化講演会を振返って
・・・・国家の防衛構想を提示すると共に、日本人の生き方とその生命観を問い直す !!
去る平成18年4月22日(日)、東京港区平河町にある日本都市センターホテル大会議室において、多くの 聴衆を集めて第八十二回の精神文化講演会が開催され、俄に緊張する東アジア情勢に鑑み、日本の防衛 の現状と、日本人の本来の心のあり方、生命観を考える一日となりました。
演題 : 「日本の防衛を考える」
拓殖大学大学院教授 海外事情研究所所長 森本 敏 先生
先生は安全保障問題を一貫して研究され、現在の国際情勢を考慮しながら、前の大戦以来の自衛隊の成り立 ち、その歴史的背景を観ながら、その歩みを振り返り、今後の日本の安全保障のあり方について率直な考え方を 述べられた。 歴史的事柄はとも角、これからの日本の安全保障の三つの柱として、日米同盟、国家の防衛力、 外交努力を提示され、それぞれについて解説を戴いた。
- 日米同盟については、その質的変化を考え、米国の国内情勢の変化に応じて、緩やかに近隣の諸国との同盟を考えるべきである。
- 国家の防衛力については、現在の自衛隊は極めて効率的で優秀であるが、集団的自衛権との関係において、装備の充実をさらにること。
- 外交努力については、先の二つの柱の変化に対応する外交努力が求められると。解説され、一番の問題である集団的自衛権の憲法九条との整合性、国民投票と憲法改正問題が今後の課題であることを示唆された。最後に安総理が目指す「美しい国創り」の質が曖昧であることを指摘され、その根には日本の生え抜きの思想である神道があると明言された。
演題 : 「日本人の生命観と現代」
京都大学名誉教授 秩父神社宮司 薗田 稔 先生
先生には神道成立の歴史から始まり、その変遷と歴史を概観して、特に「いのち」に対する悠久の時を経て伝 わる日本人の考え方、霊魂観についてお話いただいた。神道の初発は日本書紀にはじまり、いのちの宗教、森の宗 教、連なりの宗教と謂われる所以を解説され、固体生命や客体としての「いのち」ということではなく、目に見え ない実体を捉えて、アニミズムから始まり、死後も連続するいのち (生命)としての霊的生命の存在を認めてきたのが日本人であると解説された。
現代はいのちを機械と捉え、自己中心的考え方が横行し、簡単に殺人が行なわれ、ゲームのようにリセットすれば、また動き出すような感覚になってしまったことを憂えられ、正にいのちは個で存在することは無く、間柄の存在、他者あっての自己の存在に意味があるとし、死を通じて連なって行くものだと説かれた。
さらに、いのち(生命)の霊的連帯(ムスヒ・産霊・結霊)こそ教育の課題であるとして、生死を超えたクシヒ(霊性)の連続(ムスヒ)こそが人間ならではの霊的生命観であり、他者を大切にする教育が必要であると説かれた。
第82回精神文化講演会を振返って !!
講演会を振り返って考えて見ますと、国家の防衛を考えるとき、其れは日本国に対する限りない愛から発するもでなければならないし、そこに共に生きる同胞、其れはただ人間だけにあらず、山川草木あらゆる生きとし生けるものを愛する心から発しなければならないのではなかろうか。
其の愛、心のあり方とは、とりもなおさず悠久の時を経て培われた、神と自然と人間の調和をり生きて来た、日本人の伝統的心の在り方であり、いのち(生命)に対する考え方であり、平和を愛する心ではなかろうか。これを拡大すれば地球に生きる森羅万象に対する深い愛に通じるのだと思う。
国家の防衛の最も根幹を成すものは、同盟や、武装や、外交でもない、国民一人一人の不動の心のあり方そのものであると思う。日本人がその純粋な心を完全に失ったときこそ、日本国が滅びる時であると思う。そして、現代はその心を見失いつつある危機的状況にある。武装して国家の安全保障を担保する前に、心の安全保障の確立こそ急務ではなかろうか。正に、「心の美しい国創り」が求められているのです。