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第96回精神文化講演会を振り返って

木々の翠がまぶしい、春本番を迎えた去る令和3年4月18日(日)日本都市センターホテル6階大会議室において、第4波ともされるコロナ感染の拡大する中で、感染対策を十全に施した上で、大阪大学医学部教授 仲野徹先生、京都産業大学客員教授 二間瀬敏史先生をお招きして第96回精神文化講演会が開催されました。

仲野先生には誰もが関心のある病、癌について、二間瀬先生にはブラックホールと時空間について講演を頂きました。聴講者の方々も熱心にメモを取られ、困難な中で無事に開催できましたことを、両講師の先生方、聴講者の方に深く感謝を申し上げる次第です。

演題 : 「(あまり)病気をしない暮し」―がんは運である?―
大阪大学医学部教授 仲野 徹 先生

初めに仲野徹先生には、「(あまり)病気をしない暮し」―がんは運である?―の演題で講演を頂きました。

今や二人に一人が癌になり時代であるとして、がん発生の仕組みから話を始められ、一般的には0.2mm程度の一個の細胞の中に遺伝子というものがあり、その遺伝子はいわゆるDNAと呼ばれて、60億の塩基配列の二重螺旋構造からなっていて、細胞分裂の際にそれが正確に複製されるが、それが何らかの原因で5~6か所程度に傷がつくと、DNA複製の突然変異によって癌(悪性新生物、腫瘍)出来ることを示されました。その癌細胞の増殖を抑える癌抑制遺伝子や、免疫細胞があることにも触れられ、その間違いを正す機能が備わっていることについて模式図を使って示され、癌にもウイルス性(肝炎ウイルスなど)、細菌性(ピロリ菌など)があり、治療法の違いがあることを解説されました。

従来の抗がん剤は正常細胞にも作用がありますが、癌細胞だけに効果のある最新の分子標的型の治療法を紹介され、その治療法は高価であることが難点としました。最後に江戸時代に活躍した貝原益軒の養生訓を取り上げて、癌にならないための生活習慣として、禁煙する、飲酒しない、食習慣の改善、適度な運動、適正体重の維持などを挙げられました。またDNAを傷つける要因の一つである活性酸素を抑えることの大切さを述べられ、老化は避けられず、「人は死すべき定めである」と意味深い言葉で締めくくられました。

演題 : 「ブラックホールと宇宙」
京都産業大学客員教授 二間瀬 敏史 先生

休憩を挟んで二人目の講師の二間瀬敏史先生には「ブラックホールと宇宙」と題して講演を頂きました。ブラックホールとは何かからお話を始められ、先ず地球から脱出するには秒速11.2kmが必要で、太陽からは600km、小さくて重い星である白色矮星からは7,300km、中性子星からは13万km、ブラックホールからは30万km(光速度)が必要で、ブラックホールはものすごい質量(重力)を持っているものであり、銀河の中心にある巨大ブラックホールはじつに太陽の質量の380万倍あるとして、光さえもそこから抜け出せないことを示されました。2019年には5,500光年かなたの銀河M87の巨大ブラックホールが観測され、2020年には巨大ブラックホールの観測と、その中にある時空の裂け目が存在することを証明したことへノーベル賞が贈られたことを披露されました。さらにアインシュタインの相対性理論によれば、いわゆる三次元に時間を加えた四次元時空連続体に言及され、光の速度は常に一定で、それより速いものはないとしてブラックホールの中身は見ることは出来ないが、事象の地平線、つまり光がブラックホールに入る一歩手前の状態が観測され、その周辺に質量が集中し、従って重力が巨大となり、時空は歪み、ブラックホールの周辺の時間はだんだんゆっくり進むようになり、空間は中心に向かって落ち込みやがて曲率が無限大になり、光はその歪みに沿って進み一旦その中に入ると光さえ脱出できないことを、模式図を使って解説されました。そしてその中には物質は存在しないし、中身は空っぽであり、宇宙にはそうしたブラックホールが沢山あることも示され、素粒子レベルでもその衝突により瞬間的にミニブラックホールを誕生させ、五次元や六次元の余剰空間の存在の有無についての研究も進められていることを併せて解説され締めくくられました。

■ 講演を振り返って
両先生の講演から、人間とは何か、生きるとは何か、そして存在とは何かの究極の問を深く考える良い契機を頂きました。

人間の肉体を構成する約60兆の細胞の一つ一つに60億の設計図(DNA)が畳み込まれていて、そしてそれが日々細胞分裂を繰り返し、日々新しくなり、その情報が正確に伝えられ私達の生命が維持され、その情報に生じた欠陥が病(癌など)を惹き起こすことが明らかとなり、またその欠陥を修復する機能も備えているという将に驚嘆すべき精緻な仕組みは、小宇宙(ミクロ・コスモス)と言われるに相応しいものであることが分かりました。

また、ブラックホールとは何か、質量とエネルギーの等価性、質量と重力、そしてその周辺で起こっている時間空間の歪み、果たして私達が五官で捉えているこの世界は三次元なのか、それ以上のものなのか、時空の裂け目といわれる曲率無限大の特異点は何なのか、大宇宙(マクロ・コスモス)で起きている想像を絶する激しい営みを目の当たりにして謎は深まるばかりでした。私達は精緻な肉体をもち、神秘的な宇宙に抱かれて生きていることは厳然たる事実です。それならば、生命とは何か、この宇宙の中での存在を考える哲学的欲求も自ずから生まれてくるというものです。

今回は触れませんでしたが、病と心の関係、宇宙と心の関係についても、別の機会を得て尋ねてみたいと思います。

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