講演会
第98 回精神文化講演会を振り返って
好天に恵まれた去る令和5年 4 月 23 日(日)日本都市センターホテル 6 階大会議室において、武蔵野大学教育学部教授 高橋典嗣先生、元統合幕僚長 河野克俊先生をお招きして第 98 回精神文化講演会が開催されました。
高橋先生には地球史 46 億年を俯瞰し、地球を真に持続可能なものとする為の人類の果たす役割を、河野先生にはウクライナ戦争の意味するもの、緊迫度を増す日本周辺の安全保障環境と今後の課題について講演を頂きました。
人類が、また日本が今後進むべき方向を見極める上で大きな示唆を与えるものとなりました。講演を頂戴した両先生と、聴講者の方々に改めて深く感謝を申し上げる次第です。
演題 :「生命の起源と進化-地球史 46 億年・人類は地球を守れるか-」
武蔵野大学教育学部教授 高橋 典嗣 先生
高橋先生は、スライドを使って地球史 46 億年を順次紐解かれて、2022 年に新しく地質年代に記されたチバニアン(千葉県の地層)に触れられてから、宇宙誕生に始まり、地球の誕生、約 40 億年前に原始生命が誕生し、今日に至るまで幾度となく絶滅の危機を乗り越え、命をつないできた生物進化の過程を解説された。
そして 1 億 6000 万年もの間繁栄を極めた恐竜たちは、今から約 6500 万年前に小惑星の衝突により絶滅をした後、哺乳類が反映し、人類が誕生したのが今から約 500 万年前であり、地球誕生から今日までの時間を 1 年に譬えると、人類が誕生したのは 12 月 31 日の午後 11 時である事を解説された。
今やその人類が科学技術を獲得し、宇宙に多くのハビタブルゾーン(生命居住可能領域)を発見しているが、唯一、地球だけが生命のゆりかごであり、人類は石炭や石油の化石燃料の大量消費により地球環境を悪化させているとして、これまで繁栄した古生物のように絶滅することなく繁栄し続けていくには、科学技術を使って地球の豊かな自然を守り、生物と共存していかなくてはならないと締めくくられた。
今回は研究室所蔵の 45 億 7000 年前の隕石の塊、古代サメの巨大な歯、三葉虫、アンモナイトの化石を展示されて、休憩時間に聴講者が実際に手で触れ事が出来たことは、その歴史の重みを実感することができたのではないでしょうか。
演題 :「今後の日本の安全保障とその課題」
元統合幕僚長 河野 克俊 先生
次に河野先生は、初めに統合幕僚長の意味を解説され、自衛隊と憲法との関係で制限があり、動くことができずにいたが、1990 年8 月にクエートにイラクが侵攻したいわゆる湾岸戦争への対応、金は出すが人的貢献はしないとの方針が国際社会の中での評価を落とした失敗の反省を踏まえて、徐々にではあるが自衛隊の活動が海外までに及ぶようになって来たこと、次にロシアによるウクライナ侵略に触れて、私の見解と断ったうえで、プーチン大統領がなぜウクライナに攻め行ったのか、その歴史的背景と国家観に関して、あくまでウクライナとベラルーシはロシアと一体であり、この戦争は国内問題であり、治安維持であると考え、戦争と言わず特殊軍事作戦と称したのであると、更にそのウクライナが西欧に接近し NATO の一員となると言い出したことは許せないと考えたからと解説された。
更に日本周辺の安全保障環境に触れられ、日本は中国、ロシア、北朝鮮の独裁国家に囲まれた最も厳しい状況にあるとして、防衛力を高めなければならないとして今般の防衛三文書の意義を強調され、中国の政策転換に関して太平洋進出、台湾進攻、我が国領土である尖閣諸島への野望があるとし、核問題にも触れ、先の三国は全て核保有国であり、核による威嚇には核を以てするしかないとして、核廃絶と核抑止力とを混同することなく、日本も真剣に現実的にアメリカの核の傘の活用を考えなければならないと締めくくられた。
■ 講演を振り返って
人類の際限のない活動、森林大量伐採による乱開発、温室効果ガスの排出による地球温暖化や大規模戦
争などによって生命のゆりかごである地球環境を悪化させ、全生物の生存を脅かしてはならないのです。
地球が太陽から分離して 46 億年、幾多の栄枯盛衰を経て、約 40 億年前に生命が誕生し数次に亘る絶滅の危機を乗り越えて命を繋いで、現在のような多種多様な動植物が生息するようになり、地球の歴史からすれば極々最近に人類が誕生し、今や 80 億人を擁するもっとも繁栄する種となり、全生物界の頂点に立っています。
人類は急速な進化を遂げ、科学技術を手に入れ、他の天体にも手を伸ばし、宇宙の果てを探査するまでに至り、広大な宇宙空間に生命が存在するであろうハビタブルゾーンを発見していますが、いまだ生命を確認するに至っていません。
そして、唯一、この地球こそが豊かな生命を育む生命のゆりかご、宇宙飛行士が嘗て「地球は青かった」と感嘆した、将に水球と呼ばれる宇宙空間に浮かぶ奇蹟の星であることが分かってきたのです。
しかし、地上では、今や人類はその活動領域を拡大し、化石燃料の大量消費などにより、地球温暖化を加速させ、ウクライナ戦争に見るように相争い、核戦争の危機をも招こうして、人類自身はもとより全生物の生存をも脅かす事態となっています。
目を宇宙に移せば、恐竜を絶滅させた小惑星の衝突の可能性や、突然の大気の消失は酸素型生命の大半の死滅をもたらし、磁気圏の消滅は放射線の脅威をもたらす危険性を孕んでいるのです。
宇宙における唯一の生命のゆりかご、オアシスを真に持続可能なものとする為に、私達人類は、物やお金のみに執着し、相争い、自己の利害得失のみを追求するのではなく、他の生物圏の領域を侵すことなく、全生物を慈しみ、他者と共に生きる自然共生型の世界を一刻も早く建設することが私達自身にとっての安全保障にも繋がっていくのです。