わたつみ友の会

わたつみ友の会

お知らせ

講演会

第100回精神文化講演会を振り返って

4月としては異例の暖かさとなった去る令和7年4月20日(日)、日本都市センターホテル6階大会議室にて、北海道大学客員教授の小川和也先生を迎えて「天使か悪魔か-AI・テクノロジーと人類の未来」と題して第100回精神文化講演会が開催され、地球環境の悪化に歯止めかからず、世界の秩序が激しく動揺する中で、AI(人工知能)の急速な発達と遺伝子操作が悪用されたとき、人類の滅亡の危機を招来するとして、その解決の方法を見出し明るい未来を予測し展望する講演会となりました。 また併せて、弦楽四重奏によるフレッシュ・コンサートが行われました。

演題 :「天使か悪魔か -AI・テクノロジーと人類の未来-」
北海道大学客員教授 小川和也 先生

小川和也先生は、スライドを使って「AI(人工知能)とは何か」という問いから始められ、その発達史を紐解かれて一口にAIといっても色々なものがあり、特化型AI、汎用AI、超AIなどがあり、特に超AIは人間の知能を越えて、勝手に成長してしまうもので、極めて危険なものであるとして警鐘ならされ、現在は教育のオンライン化が進み、2030年代になるとパソコンのように個人を対象とするAIが出現し、2040年代になると脳型AIが出現し、脳とAIとの結合により、仮想と現実の垣根がなくなり、仮想でありながら実質的存在となると予測されました。

 また、ゲノム(遺伝子)編集技術が発展し、人間の遺伝子が改変され、将来は量子コンピュータとAIとの組み合わせによりポストヒューマン(超人間とか)が現実化する可能性があると予測されました。そしてこの二つ技術が悪用されたとき、世界は分断され、現生人類は滅びる危険性があると予測され、外部環境が変化し、現在の情報化社会からAI化時代となり自然物と人工物の境界(現在の地球上での比率は半々)が無くなり、生体としての人間の価値が下がって行く事態となって行くと。これを回避するには「人間の能力とは何か」を考え、人間にしかできない仕事や価値を発見し、人間の質の向上と、教育の在り方を変えなければならないと訴えられました。

翻って日本の現状は、AI化は欧米に比べて遅れているが、AI化にともなって「日本らしさ」は人間の価値の宝庫であるとして、その特質はAIや人工物社会に欠けている共感や協調、愛情、遊びなどが、年中行事や祭りに見る八百万の神の思想、自然共に生きる共生思想、地域文化に反映されているとして、それを大いに活かすべきと訴えられた。そしてAIや遺伝子操作が「天使か悪魔か」ではなく、これ以上地球環境を破壊することなく、人類が長く生存できるよう、その運用次第で人間自身が地上の天使になるのか、それとも悪用して生存の危機を招く悪魔になるのか、その選択を迫られていると結論づけられました。

フレッシュ・コンサート(弦楽四重奏)

講演終了後、多くの音楽シーンで活躍している若い演奏家4人による弦楽四重奏で、クラシックから映画音楽、歌謡曲など10曲が演奏され、会場全体が美しい音色と「愛のメロディー」に充たされました。

■ 講演を振り返って

人間の存在は合理性では到達できない精神的実存なのであり、生きているのである。そのことを忘れて合理性によってのみ情報化社会を生み出し、AI(人工知能)の登場によって人間が機械に近づき、今やその考える主体を機械に置き換えようとしているのである。

パスカルがいったように人間は考えることによって高度な文明を築き上げてきたわけですが、火薬の発明や原子力の解放などによって科学技術の長足の進歩をもたらした一方で、戦争の惨禍を招き、人類の生存までを脅かしています。更に20世紀後半から21世紀初頭にかけて今日至るまでAI(人工知能)の発明が急速に発展し、人類史嘗てないほどに人間自身の変革と、その社会構造に変革を及ぼし、世界の在り様を一変しようとしています。

しかしながらAIがどんなに進歩しても人間が発明した機械であり、人間は生命を宿し生きているものであり、唯物的機械ではないことを決して忘れてはならないのです。今、私達の世界は、考えることの主体をAIに委ねるのか、それとも機械にはない人間の能力(真善美を希求する心、感激や感動をする心、自らを犠牲にして自身以外の事物や他人に愛情を注ぐ心、共感や協調する心などなど)を大切にするのかを選択しなければならない時代が到来しているのです。要約すれば「人間とは何か」「生きているとは如何なることか」「人間らしく生きるとは」との問いかけに対して答えを出さなければならない状況に至っているのです。

現在の世界は覇権を争い、分断を助長し、富の収奪だけを志向して弱肉強食の世界となっていますが、そうした中で日本はどう進めばよいのでしょうか。

日本は一国で一文化圏を形成する特殊な国であり、軍事力でもなければ経済力でもない先に挙げた人間の能力、人間性を大切にする文化を持ち続けてきたのです。それは悠久の時を経て培ってきた敬神崇祖の心を基盤として、万物に調和し、あらゆる生きとしいけるものを慈しみ、平和を愛し、共存共栄の伝統的文化の力なのです。

科学文明が著しく発展した世界にあって、世界を真に平和に導き、地球環境を持続可能にする21世紀に相応しい倫理観を持っている国なのです。私達一人ひとりが、国家を預かる為政者は特にそのことを自覚しなければならないのです。そして、その文化力を以て世界をリードする時がやってきていると小川和也先生の講演から痛感するものとなりました。

west お知らせ一覧へ