講演会
第85回精神文化講演会を振返って
・・・・現代物理学が明らかにする物質の究極の姿、宇宙観と、日本人が営々として培って来た伝統的日本の心が表現する宇宙観との間に接点を探る !!
去る平成22年4月18日、前日の41年ぶりの雪と真冬の寒さとは打って変わって、春麗かな好天に恵まれた中、多くの聴衆を集めて、日本文化の源泉を探ると共に、偉大な物理学者の苦悩を窺い知る講演会となりました。
多くの方々のご来聴を戴き厚く御礼申し上げます。
演題 : 「日本文化の再発見 ― 神宮式年遷宮の叡智 ―」
京都産業大学教授
所 功 先生
初めに、京都産業大学教授・所功先生に「日本文化の再発見」-神宮式年遷宮の叡智―と題して講演を戴いた。日本という国名、また文化の意味について解説され、日本文化の特徴は重層的豊かな文化であることを強調され、その中核に伊勢神宮があり、20年に一度お社と全ての神宝を新しくする式年遷宮が1300年に亘って行なわれて来たことは、単に物質の問題ではなく、其処には生命の再生を祈念し、連なりの文化、精神が流れていること。神宮の歴史を辿りながら、神宮の建築造いわゆる唯一神明造りが、もと食物(稲)を貯蔵する蔵に起源があり、神宮の祭事は、深く稲(食物)に関係するもが多く、神嘗祭、新嘗祭などの意義に言及され、人間が食べる食物は、タベモノ(賜り物、給わり物)で、たべる(食)とは神仏などからいただく場合をいうことから、我々が生きているということは、祖先から生を受けると共に、自然の動植物を戴いて生があることを述 べられ、日本人が食事をする時に「戴きます」「ご馳走さま」ということは、タベモノ(命を繋ぐもの)は天からの戴き物であることを知っているからで、感謝の心そのもので、実に床しい伝統文化である事を解説された。
日本人の心のふるさとである伊勢神宮の営みは、将に生命の根源的営みであり、人間として、中でも日本人として生を受けたことが、身にしみて有難いことであることを実感する講演となりました。
演題:「アインシュタインの蹉跌 ― 自然・理・誠 ―」
甲南大学特別客員教授
佐藤 文隆 先生
次に、甲南大学特別客員教授・佐藤文隆先生に「アインシュタインの蹉跌」―自然・理・誠―と題して講演を戴いた。アインシュタインには、革命的考え、力強さ(政治経済を動かす)、知的興味・ロマン・夢、ハイテクの芽と云う四つの顔があり、時代に大きな影響を及ぼして来たことを述べられ、1905年に光電効果を発見し、量子力学の勃興の契機を作り、後のエレクトロにクスの源となる。
同年特殊相対性理論を発表し、今日の原子力の解放に繋がる。1917年、広大な宇宙の時間と空間の関係を表す一般相対性理論を発表、従来の世界観、宇宙観に革命的変革を齎した。その偉大な一人の理論物理学者の歩んだ歴史を辿り、時代と政治状況と家庭の問題に翻弄され、50歳以降は極めて寂しい人生を送ったことを語られ、その蹉跌の一つに、今日のエレクトロニクス技術の繁栄の基礎を作った量子力学を生涯に亘って受け入れなかったこと。ユダヤ人であったため、ナチスドイツの迫害から逃れ米国に亡命しながら生涯を無国籍のままで、自らの故郷を失ってしまったことなど、世界に大きな影響を及ぼしながら、一人の人間として人生に大きな苦悩を抱えていたことを解説された。
自然は哲理(法則)によって貫かれているが、「思惟の勝利」といわれた輝かしい功績とは別に、一個の人間としての誠(真実)は孤独で寂しいものであったことを窺い知る講演となりました。
■ 第85回精神文化講演会を振返って !!
両先生の講演から、日本に根付く豊かで床しい伝統文化とその真髄を、人間の心の偉大さと悲惨さをそれぞれ垣間見る事ができたと思います。今日の社会的混乱と疲弊は、日本国土に深く根を下ろした古くて新しい真理を学ぶことを閑却した事にあります。我々は今こそ、目先の利害得失や物質的幸せだけを追い求める事から脱却して、生命の尊厳とは、真の人間性とは、中でも日本人としての生き方を考え、本当の幸せは外界には無いことに気付き、日本の豊かな文化の母胎としての自然人となり、本来の日本、日本人に蘇ることを要請されているのではないでしょうか。