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第90回精神文化講演会を振り返って

緑が一段と濃くなって来た去る4月19日、日本都市センタ―ホテル6階大会議室に於いて、長谷川 三千子、西原 稔両先生を迎えて、日本人であるとは如何なることなのか、その思考の在り方の特異性と世界性を探ると共に、万人に感動を呼ぶ音楽の成り立ちとその魅力を考える第90回精神文化講演会が開催されました。

満員の聴衆の方々も、普段に聴くことが出来ない両先生の興趣溢れる講演に熱心に聴き入り、大変有意義な講演会となりました。

演題 : 「日本人であることの難しさ」
埼玉大学名誉教授  長谷川 三千子 先生

長谷川三千先生は三つの難しさを挙げられ、一つ目は、第二次世界大戦終結70年に当たる今日、昭和27年にサンフランシスコ講和条約によって、日本の主権が回復されたにもかかわらず、今日まで敗戦国悪玉論によって、日本が謝り続けている事、更に日本の高学歴の知識人の中に日本悪玉論が定着していることへの疑問を投げかけられ、戦争に対する考え方を変える事を促された。二つ目は、グロウバリゼーション(世界化)によって、言語消滅や、世界中の人々が独自の衣食住や文化の維持が難しくなっている事例を挙げられ、一方日本語の安定性はむしろ有り難い事であるとされた。三つ目は、江戸時代において世界化の波をうまく乗り切って、植民地化しなかった事、二千年前から漢字を取り入れ、漢字仮名交じりの言語を使い、翻訳語を創造し、本居宣長が古事記伝を著すに至り、漢意(からごころ)を批判し、日本人本来の姿に帰る事を促したと話され、日本は外国文化を換骨奪胎して世界化という難しさをすいすいと消化吸収して、主体的にやって来た事を強調されて講演を締めくくられた。

演題 : 「天体の音楽―音を超えた音楽の意味するもの―」
桐朋学園大学音楽部教授 西原 稔 先生

西原稔先生は、古代人は天体と音階は一つであり、ハーモニー(和声、調和)であるという思想を持ち、絶対的ハーモニーこそ政治や天下国家の平安の基本である考えた事から、自然情緒に生きた日本と違い、西洋文化は数字にこだわり、音程比を膨大な時間をかけて計算した結果、半音の50分の1ほどのズレを証明できず、これを宇宙の裂け目と捉えた事等を話され、天体のハーモニーや、平均律や標準音にも言及され、バロック時代や中世と、現代の調性の違いを実際の音楽を聴く中で触れられた。そして、現代は微細な音程が失われ、表現が単純化、標準化し豊かさが失われているとして、ケプラー、ホルストやヒンデミットの名を挙げ、音楽には思想、理念が大切である事を指摘され、ハーモニーとは一つの制度で全てを統一する事でなく、様々な異なったものを結びつける事が本来の意であると説かれ、大変示唆に富んだ興味深い講演を締めくくられた。

■ 講演を振り返って
― 民族の伝統や文化を無視したグローバリゼーション(世界化)は却って軋轢を生む ―

今回の講演では、世界化が進む中、日本人は世界文化を積極的に取り入れ、日本流に変革し、巧みに吸収しながら独自の文化を築き上げてきた民族であり、「神と自然と人間の調和(ハーモニー)」を重んじて来たことから、日本人と日本文化の世界形成性と、強靭で柔軟な精神の在り様を垣間見る事ができました。そして、興味の尽きない音楽の話からも、あたかも世界が、オーケストラの様に各楽器が十全にその能力を発揮した時、其処に素晴らしいハーモニーが生まれる如く、世界の民族がその伝統と文化を十全に開花し結びついたとき、自ずから世界の調和が導かれるのではなかろうか。各民族の伝統や文化・宗教を無視した一つの制度を以てグローバルスタンダード(世界標準)とする事は、却って世界に軋轢と闘争を生むことにならないだろうか。世界の多様性を肯定する事が豊かさの象徴であり、平和への道ではないかと思えてならない講演会となりました。

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