講演会
第92回精神文化講演会を振り返って
ソメイヨシノも散り、新緑と山桜が仄かに香る好天に恵まれた去る4月23日(日)、第92回精神文化講演会が開催されました。奈良大学教授 上野誠先生には、情熱と、その巧みな話術を以て、聴衆を引き込み、万葉集巻頭の雄略天皇の御製歌(おおみうた)を解説され、万葉人のおおらかで床しい心を伝えて戴きました。医学博士 田下昌明先生には、28頁に亘るレジュメを以て、女性の役割、母性と胎児の関係性とその重要性、その後の発達に及ぼす影響について解説を戴いた。両先生の講話は、日本の心の琴線に触れる極めて有意義な講演会となりました。
演題 : 「万葉のこころ」
奈良大学文学部教授 上野 誠 先生
初めに、上野誠先生には、文学、とくに万葉集を教えるに当たって、実感の伴った教育の大切さを訴えられ、心のこもった丁寧な解説によって、万葉集開巻第一の歌に在る雄略天皇の御製歌の中に在る文化、風習、心模様が眼前に展開し、当時の天皇と乙女たちの交流、若菜摘みの場面の息使いまでを彷彿とするものでした。
更に、和歌は、その言葉をどんどん削ぎ落としていった短い言葉に、深い意味が込められている事。そして、其の意味を感じる事の大切さを語られ、時よりエピソードやユーモアを交えて聴衆の笑いを誘い、人名の読み方、古代の婚姻について、平城京の時代、春日野が若菜摘みの場であった事、歌の詠み方は末尾句を復唱するのが伝統である事等を紹介され、抒情あふれる素敵な講演でした。
演題 : 「真っ当な日本人の育て方」
医学博士 田下 昌明 先生
次に、田下昌明先生には、女性が子供を産んだことで直ちに母になる事でなく、妊娠から始まる胎児と母親の関係性において、融合して一つとなって母性の開発が行われ、初めて母と成って行く事。その後の発達段階でも胎児は既にすべての感覚が覚醒しており、母親の感情の動きに極めて敏感に反応する為に、母親の心の安定が大切であり、更に出産後の最初の一時間が最も大切で、母と子の絶対の絆が生まれる事。その絆や愛着行動が不完全なままに置かれると、その後の人生において重大な障害となり、それが引き籠りや自殺の原因になる事等、これらの事から生後3年間は、母子は一日24時間一緒にいるのが最も望ましい事等を、レジュメを紐解きながら解説されました。
更に戦後教育の誤りと、現在の政府の男女共同参画社会の考え方の誤りを指摘され、「今日の日本において直ちに着手しなければならない事は、慈愛に満ちた母性と明確な人生観を持つ父性によって正しい躾を行い、もって家族の絆を強め、日本人としての誇りと豊かな感性を備えた未来の担い手たる子供達が、人のために生きる人間になるように育てて行くことである。」(レジュメから)と結論されました。
■ 講演を振り返って
真っ当な日本人を育てるには、日本の心を身に付けた母親の絶対の愛情が必要なのです。
真っ当な日本人とは、父母を真に敬愛し、日本の生え抜きの伝統文化を大切にし、祖国に誇りと愛情を以て、社会、国家に奉仕する人間である事が明らかとなりました。こうした人間は誠に幸せな人と言えるのです。
日本の生え抜きの伝統文化が万葉集の中に在り、大らかさと床しさは「神と自然と人間の調和」の表現にほかなりません。日本文化に育まれた母性は、その自らを犠牲にして子を育てる無償の愛なのです。その愛を身に着けた女性のみが真の日本人を育てる事が出来るのです。従って、母と成るべき女性は、健全な愛を育む事が最も大切なのです。そして、育児は将来の日本に繁栄を齎し、社会、国家に奉仕する神聖な一大事業なのです。
男女共同参画社会とは、女性が男性と対等に仕事をすることではなく、人手不足を補う事でもない。男性、女性が各々、本来の役割を十全に果たすことではなかろうか。「女性が家庭に帰る」という事なのです。その為の社会環境を整えるのが政府の第一の政策課題であると思えてなりません。